• 土田国際税務会計事務所

コーポレートインバージョンの留意点


日本の多国籍企業が組織再編等を通じて海外に外国法人を設立し、その企業グループの最終的な親会社になるようにするアレンジです。

まず初めに。コーポレートインバージョンという組織再編を通じて、グループ企業全体の実行税率を下げる効果が期待できます。したがって、各国課税当局はこうしたアレンジを実行しようとする企業を注視する傾向にあります。

アメリカでは、2016年にファイザーがアイルランドのアラガンとの合併を通じて本社をアイルランドに移転する計画でしたが、米財務省が節税目的のM&A(合併・買収)に歯止めをかける新たな規制を発表したことで、節税効果が見込めなくなり合併自体がキャンセルになりました。

親会社がタックスヘイブンにあることは必ずしもおかしなことではありませんし、違法なことでもありません。たとえば、国際的に微妙なポジションにおかれている台湾の多くの企業は、大手の企業でも本店登記地はケイマンなどのタックスヘイブンですし、金融関係の会社やファンドもタックスヘイブンが登記地であるのは珍しくありません。

大きな多国籍企業だけでなく、同族企業でもコーポレートインバージョンを行うケースが見受けられます。株主が限定されていて資本関係が複雑でないので、より簡便にスキームを実行できるといった側面があるように思います。

もっとも、こうしたスキーム実行にあたっては留意すべき点も多々あります。税負担を軽減させることだけを目的とした組織再編はお勧めしませんし、私どもではサポートしません。

重要であるのは、ビジネス上の必要性があるかどうかです。ホールディングカンパニーなどを海外に設立する場合、候補地としては香港、シンガポール、アイルランド、オランドといった国が多いといえます。人や企業が集積しビジネスがやりやすい、規制が緩やかで透明性がある、優遇政策などがある、英語が通じる、税率が低い、などといった理由が考えられます。特に、日系の同族企業では、香港やシンガポールを選択するケースが多いといえます。どちらも、ビジネスをやりやすいように国を挙げて取り組んでいますし、アジアの現地法人を統括するといった地理的な理由もあるように思います。

ただ、単に香港やシンガポールに法人を設立すればよいわけではありません。企業活動の実態がなければなりません。

日本の同族企業が香港に法人を設立し、日本法人の株式を香港法人に売却することで、香港法人を日本法人の親会社にすることができます。この場合、まず日本で株式の譲渡に際して譲渡所得が発生します。さらに、留意しなければいけないのは、香港法人の株主が日本の居住者である場合には、その株主にとって香港法人がタックスヘイブン税制(合算課税)の対象になりうるということです。日本のタックスヘイブン税制は、法人だけでなく個人も対象となり、日本の居住者が持分比率や租税負担率の低い国の法人のオーナーである場合には、適用除外基準(事業活動を行っていることの厳密な要件)を満たさないかぎり、一定の香港法人の留保利益はそのオーナーの所得と合算されて日本の所得税の対象になるのです。

また、その香港法人が事業の実態を有し、日本法人と無形資産取引や役務提供取引等を行っていたとしても、移転価格税制に留意しなければなりません。移転価格では、取引の実態に応じて取引価格が適切に設定されているかが論点となります。たいしたサービスを提供していないのに、多額の費用を日本法人が香港法人に対して負担しているようなことがあれば、日本の課税当局は、取引価格が適切でない(この場合費用が大きすぎるとして)として日本法人に対して課税処分を下す権限を有します。

コーポレートインバージョンだけでなく、海外現法の設立にあたっては、ビジネス上の必要性と各種の税務リスクを低減させるアレンジメントが求められます。


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