• 土田国際税務会計事務所

BEPS対応


07年から始まった金融危機への対応として、各国は中央銀行による金融緩和だけでなく、積極的な財政出動を行いました。大規模な対応もありリーマンショックの激震は収まりましたが、財政赤字の虚偽申告をしていたギリシアを発端に南欧諸国に対する国家への信用不安が広がりました。ECBの量的緩和策が奏功してそうした信用不安は和らぎましたが、各国に借金は積みあがったままです。さらに世界的な低成長もあり各国の歳入はなかなか増えないといった状況にあります。これが、健全な財政を堅持するドイツを除いたおおよその主要国のざっくりとした状況です。喉から手が出るほど税収を確保したいこうした環境のもと、スターバックスやグーグル、アップルなどの多国籍企業による課税逃れの疑惑が大きく報道され、耳目を集めることになります。

大企業の税金逃れは許さない、という国家間のコンセンサスが、Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)のそもそもの端緒となっています。G20の要請を受けてOECDにおいて具体的な行動計画(行動計画1~15)が立てられ、最終報告という形でまとめられました。この行動計画は、各国の法律にすでに落とし込まれ、或いは今後落とし込んでいくことになりますが、現在、日本の多国籍企業が対応を急いでいるのが行動計画13に規定された移転価格の文書化になります。

移転価格文書化の具体的な内容としては、国別報告事項、マスターファイル、ローカルファイルの3層建てとなります。ローカルファイルは、対象となる海外現地法人において作成する移転価格分析文書となります。その作成や税務当局への提出は所在地国の法規制に準拠するため、インドネシアなどの一部の国ではすでに現地法人に対してローカルファイルの提出要求が広く行われています。ローカルファイルは、現地法人に対象を絞って移転価格の評価を行うもので、現地当局が移転価格上の問題があると認識すると移転価格調査を受ける可能性が高くなります。

日本においては、適用条件を満たす企業に対して、2017年3月31日期の事業年度を対象とする国別報告事項、マスターファイルの提出が18年3月31日までに求められています。現在その対応を急がれていると思います。弊所では、来年度以降移転価格文書の作成を自社で対応していくためのノウハウをクライアントサイドに蓄積していくために、また費用を抑えるといった観点からも、文書の方向性を説明したうえでクライアントでドラフトの作成を行い、弊所でレビューをしていくといった繰り返しで移転価格文書を作成していきます。そうした作業において気づくのは、それぞれの文書をいかに記載するかに目が行き過ぎて、グループ全体の移転価格の状況を把握するという視点がともするとおろそかになるという点です。移転価格文書というのは、個々の取引や損益といった企業グループの状況を移転価格の概念の中で評価し分析する作業といえます。移転価格文書を通じて企業グループの移転価格設定が妥当であるのか、或いは問題がありそうなのかといった点が明らかになります。問題になりそうな部分をうまく表現することもコンサルタントの技量といえますが、移転価格文書はあくまでも結果についての記録であって、より本質的に重要であるのは移転価格の考え方と企業グループの実際のオペレーションの折り合いをどのようにつけるかにあります。

BEPSにおける移転価格文書をレビューすることで、企業グループの各国間、或いはサプライチェーンにおける利益配分の状況や無形資産等の内容を把握することができます。今後、各国の課税当局はこうした基礎資料に基づき、自国から不当に税金逃れが行われていないかについて神経をとがらせることでしょう。そして、BEPSに関してコンセンサスを共有しているG20も、実際の税務執行の段階では利害が正面から衝突することになります。移転価格分析は経済学の考え方を適用し、移転価格的な妥当性に関する一致した定性的な考え方はあるのですが、特定の企業グループの実際の利益配分においては、各国の立場が異なりますので異なる見解をとることがあります。すなわち、一つの事実に対して、A国とB国で異なる見解を有する可能性があるのです。企業としては、自己防衛する必要があり、各国の移転価格の執行状況をみながら利益配分を考える必要があります。


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