• 土田国際税務会計事務所

香港ドルの行方


昨年から少しづつ香港ドルが米ドルに対して下落しています。

香港ドルは米ドルとペッグしており、一定の許容変動幅(1米ドル=7.75~7.85)の間で上下するように管理されています。その香港ドルが下限値である1米ドル=7.85HK$の下限に迫っています。1984年以来の33年ぶりの安値です。香港ドルのこうした動きに関して、昨年来、個人的に非常に気になっていました。香港ドルの下落が、香港の置かれた困難な状況を想起させるからです。

香港の流通通貨である香港ドルを米ドルにペッグさせていることから、香港の金融政策は基本的にアメリカの金融政策に追従することになります。一方で、香港経済は地理的にも人口的にも中国大陸の影響を大きく受けているのが現状です。

たとえば、アメリカが金利を上げて金融引き締めを行った場合においても、中国において逆に緩和的な金融政策がとられている場合、中国であふれたおカネがフリーポートである香港に流入し、引き締め的な金融政策の効果を相殺させることになってしまいます。こうしたケースでは、景気を抑制することが十分にできず、景気の行き過ぎた過熱を招き、バブルの発生といった状況につながる恐れがあります。逆もまた然りで、アメリカが景気の底上げを企図して緩和的な金融政策をとった場合、香港当局も緩和的な政策に従うことになりますが、中国での金融政策が引き締めの方向にある場合には、中国の景気原則の影響を受けることで、香港の緩和的な金融政策が冷や水を浴びるような状況となってしまします。

香港はアメリカと中国との間に灯された炎のような存在で、二つの大国から吹きつける風に翻弄されることにならざるを得ません。

こうした矛盾は従来から指摘されてきたことですが、中国経済の巨大化とともに、抜き差しならない状況に近づきつつあるように思えます。今回の香港ドルの下落についても、アメリカに連動して香港の短期市場金利が上がるべき段階にもかかわらず、中国からの資金が流入して短期金融市場の流動性が潤沢になったことから、米ドルとの間に金利差が生じて資金が香港ドルから流出しているというのが実態のようです。

もっとも、香港が内包する苦境はより困難で自らでは解消不能なものです。

香港は自由な都市国家です。法規制は簡潔で、必要最低限のルールを定めているにすぎません。その活力の源泉は競争にあり、刀が打たれることで強度を増すように強者がより強くなり、豊かなものがより豊かになる、資本主義の原理を露骨なまでに実現している都市といえます。基本的なシステムはアングロサクソン的な思考を基礎としており、イギリスの長期に及ぶ統治の影響を受けているのですが、そうした基盤に過小な国土や

人的リソースなどの制限といったさまざまなハンディキャップを抱えながらも成長していくための知恵として、現在のような自由と合理主義に基づく極端な資本主義社会が出来上がったのではないかと考えています。

中国に香港が返還された際、中国にとっての香港の価値は非常に大きなものでした。現在、中国全体に占める香港のGDPの比率は3%未満で、そもそも香港経済そのものがメインランドに大きく依存している状態です。それでもなお、香港は不透明で複雑な規制の存在する中国への投資の窓口として、或いは中国からの資金の逃避先の経由地として機能していますし、ヒト・カネ・モノのハブとしてフリーポートを有することは中国にとっても大きなメリットであると考えられます。

一方で、中国は名目上社会主義体制を堅持し、国家がすべてのものに優先されます。中国での生活は案外自由で外国メディアが伝えるほどには統制がしかれているということはありませんが、それでも公の政治的な批判といったものはやはりタブーといえます。経済も然りで、国家目標を達成するための一つのツールとして機能することになります。こうした国家のあり方が香港の社会を構成する基本理念と矛盾することは明らかです。現在、香港においても公の場所で中国政府を批判したり、書籍を発行したり、そうした書籍を販売するといったといった行為が憚られるような状況にあります。一応、返還後50年間は一国二制度が保証されていますが、香港の基本理念は徐々におかされているように見えます。

香港の保証された50年の後の世界を想像することは難しいのですが、ますます自分たちの国家運営に自信を深める中国政府にとって、現在の香港のあり方が望ましいのであれば現状が続くでしょうが、メリットよりデメリットが多いと考えれば、香港のより急進的な中国化というものが今後社会のさまざまなところで進んでいくはずです。

こうした状況を考えると、単に米ドルとペックしていることをもって香港ドルを保有することはリスクが高い行為であると考えられます。とりあえず先行きが不透明なので、余剰資金については米ドルで持っておこう考えるのは、自然な流れといえます。同時に、長期的な観点からの香港への投資というのは、将来的な社会変動へのリスクに留意して実施すべきです。


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