• 土田国際税務会計事務所

貿易摩擦とアメリカへの投資


トランプ政権が鉄鋼・アルミニウムの関税措置に続いて中国への関税措置を発表しました。今後対象品目などの詳細が詰められることになります。

トランプ大統領に関しては差別主義的と指摘されるような言動や「保護主義者」のレッテルを張られ批判にさらされているように見えます。少なくとも、普段目にするメディアからは、おおむねトランプ大統領に対する懸念や批判的な論調が流されているのではないでしょうか。もっとも、こうしたメディアは先の大統領選でトランプの当選をまったく予測していなかったことは事実ですので、その論調をうのみにするのではなく、冷静にトランプのアメリカというのを考える必要があります。

トランプ大統領については、気まぐれや行き当たりばったり、思いつきの言動などと、やはり主要メディアでは批判的に論じられることが多いのですが、果してそうでしょうか?

トランプの主要政策の力学は、彼自身が度々口にする「make america great again」「America first」に基づいて進められていきます。やはりよく耳にするのは「アメリカの雇用を増やす」、「国境に壁を作る」、「軍事力の再増強」、「成長率を高める」といったものですが、イメージとしては、国内の雇用を増やし、生産力を高め、そして軍事力を他国を寄せ付けない圧倒的なレベルに引き上げて、総合的な国力を増強させるということではないかと思います。

わざわざGreat againをいっていますので、現実は凋落してしまったけれども、理想的な姿が過去のアメリカにあることを示唆しています。トランプにとっての理想的なアメリカは1945年にあると考えられます。第二次大戦が終了した年であり、アメリカのGDPは世界全体の50%超を超え、資源を有し、圧倒的な生産力を誇るまさにスーパー超大国の位置にありました。戦争により日本やヨーロッパの生産力は破壊され、中国はまだ世界経済に組み込まれておらず、アジアの新興国はここから独立していくことになります。

アメリカが中心となって構築したのが、ブレトンウッズ体制といわれるものです。これは、当時のアメリカにとって、破壊されずに維持された自国のあり余る生産力を有効的に活用し、かつ西側同盟国の復興を助けるための最適なシステムでした。ドル金本位制により、なお金とペッグしているものの、ドルが基軸通貨になり、貿易に際しての為替リスクを排除するため、ドルと主要国の為替レートは固定になりました。1ドル360円の固定為替レートの時代です。IMF、世界銀行(前身は国際開発復興銀行)の設立により、貿易の振興や金融の安定化、敗戦で工業力が破壊された国への長期資金の提供などが行われることになりました。繰り返しになりますが、ブレトンウッズ体制は当時の西側諸国の実情にマッチしたもので、アメリカは自国の余剰生産力を西側諸国に供給し、日本や西側ヨーロッパ諸国などは復興のための長期資金の借入を受けると同時に、比較的有利な為替レートで、為替リスクを負担することなく貿易による国家の振興を図ることができたわけです。

ブレトンウッズ体制は当時の状況に適したものであって、各国の力のバランスが変動することで、当然のようにそのシステムを維持することは困難となります。まず、1971年に金とドルの兌換が停止されるいわゆるニクソンショックにより、ドル金本位制が崩壊します。その後、金とペッグしないドルが基軸通貨として流通することになり、FRBは何ら制約を受けることなく自国の経済状況に応じてドルを思うがまま発行できるようになりました。ニクソンショックは、日本や西側ヨーロッパ諸国の復興と国力の増大によって、1945年当時の各国間の力のバランスが崩れた当然の帰結といえます。

凋落の一途をたどっていたアメリカですが、1981年にレーガンが登場することで凋落の速度は緩やかになります。レーガノミクスは結果としてソ連邦の解体による東西冷戦の終結や規制緩和、競争による民間活力の活用といった現在に続くアメリカの競争力の源泉を生む契機となったと考えています。

同時に、1980年代に本格化したのは、アメリカの多国籍企業による海外の生産拠点の開設です。メーカーがアメリカの消費者のために中南米や東欧、アジア圏に工場を立ち上げて安価な製品を輸入するというビジネスモデルですが、製造業だけでなく、ウォルマートなどは早くから海外で作らせた価格競争力のある商品を店頭に並べることで巨大化することができました。

重商主義の時代から、税収や雇用の拡大、科学技術の向上など自国の企業が成長することは直接、間接に国力の向上につながると考えられていましたが、この辺りから自国の企業の成長がそのまま国富の増大をもたらさないという状況が生じることになります。企業が海外に進出して国際的なサプライチェーンを構築することで、雇用や税収の多くが海外で発生することになるからです(アメリカの旧税制上、建前は全世界所得に課税されますが、海外に留保された利益については納税が留保されていました。)。

アメリカは今なお軍事力、科学技術力、企業の競争力や人材の多様性など、さまざまな分野で圧倒的な力を持っていますが、中国の勃興により世界全体に占める国力は相対的に凋落し続けているということができます。

トランプの出現により実質的に破たんしていたブレトンウッズ体制は名実ともに過去のものとなりました。トランプが実行しようとしている経済政策は、中間選挙のための票稼ぎでもなく、ましてや単なる思い付きではなく、アメリカを中心とした新たな世界秩序の構築といえます。これまでの秩序を担っていた盟主が、古い秩序を捨て新しい秩序を構築しようとすれば、必然的に混乱が生ずることになります。こうした事実はトランプの選挙公約を見れば容易に理解できることです。新しい国際秩序が出来上がるまでの今後数年は、各国間の折衝や衝突により時として非常に不安定な様相を呈することは避けられません。中国はよく既存秩序に挑戦しているといわれますし、実際その国家資本主義的な統治形態は独特なものですが、実は既存の秩序から多大な恩恵を受けており、アメリカの変心により既存の貿易体制を擁護する姿はある意味滑稽でもあります。

トランプのこれまでの個々の経済政策をみると、就任一年目で規制緩和や税制改革を行いアメリカに事業をしやすい環境を作っているといえます。そして、二年目の今年は、国内のインフラ整備と輸入品への高関税措置の導入を図ろうとしています。鉄鋼やアルミ二ウム、中国への301条の行使は、貿易黒字国への警告だけでなく、実はアメリカでビジネスをする企業に対するものであると考えることができます。要はアメリカで売るものはアメリカで作れ、ということです。そして、貿易黒字国へは、貿易不均衡を是正するための国内市場を開放しアメリカのものを買え、という強いメッセージであるといえます。

アメリカでビジネスをするほとんどの多国籍企業にとって、今回のトランプの措置は受け入れがたいもので、強く反対すると考えれられます。トランプにとっての本当の抵抗勢力は、EUや中国ではなく、アメリカで事業を行う巨大資本といえます。しかし、特定の業界・産業からの献金に頼っていないトランプは、必ずしも巨大資本におもねる必要はなく、そうした反対に耳を傾けるよりも、最大の果実を得られるまで、振り上げたこぶしをとことんまで下すことはないと思います。最終的に、トランプの本気度を知った多国籍企業は、今後アメリカへの投資を本格化させるのではないでしょうか。すなわち、多国籍企業は、今後政治リスクを考慮して、アメリカで売るものはアメリカで作るという、地産地消でのモノづくりを進めていくことになると考えています。

そして、アメリカのこうした傾向は、トランプ後においても継続するはずです。なぜなら、トランプがAmerica firstの流れを作っているようにみえますが、本当は逆でアメリカがトランプを大統領に選出したからです。

次に、貿易黒字国との折衝ですが、個人的にはあまり心配していません。貿易戦争といった刺激的なフレーズが語られていますが、EUにせよ中国にせよ、あるいは日本にせよ、アメリカと互角に戦えるほどのカードは持っていません。あるEUの首脳がアメリカのやり方は銃を頭に突きつけて交渉を迫るようなものだと評していましたが、言いえて妙な表現で、銃を持っているのはアメリカで、各国は申し訳程度のナイフを持っている程度にすぎません。

EUはアメリカへの対抗措置を講ずる構えですが、忘れてならないのはヨーロッパからの輸入車への関税という最強のカードを有しているのはアメリカです。かりにアメリカがEUからの輸入車に高関税をかければ、ドイツの経済はたちまちシュリンクしますので、EUの盟主であるドイツがこうした結末が予想される打ち合いに応じるはずがなく、EUは対抗措置を示して互角の立場を演じますしが、すべては交渉のためであり、決定打であるアメリカの輸入車への関税措置が導入される前に、EUは譲歩せざるを得ません。これは政治的な駆け引きであり、決して貿易戦争ではありません。したがって、最終的に貿易分野における利益の再配分をどのように行うか、どの程度の条件でトランプがDealを成立させるかということです。

中国はEUよりもっと分が悪いです。実際、アメリカの懲罰的通商政策に対抗するために使えるカードを中国はほとんど持っていません。そもそも中国のアメリカからの輸入額はその輸出額に比して圧倒的に少なく、アメリカが本気になった場合の関税措置と同額の関税措置を中国はアメリカ製品に課すことはできません。課すことができないだけでなく、アメリカの高関税措置が発効すれば、売り先を失った中国の地場産業は生産を停止せざるを得ず、場合によっては倒産する企業も出てくるでしょう。もちろん、中国で生産して輸入する多くのアメリカ企業も影響を受けるのですが、雇用が減るのは中国であり、失業者があふれ社会不安が高まるのは中国となります。報復として、中国がアメリカ企業に対して、特定の産業における差別的参入障壁を設けることも考えられます。実際、影響の軽微な程度で何らかのそうした措置が取られる可能性がありますが、外資企業がもたらす雇用と先端技術をなお欲しているのは中国自身ですので、こうした措置を全面的に実行することは考えずらいといえます。中国による保有米国債の売却という手もあります。アメリカへの脅しとして、数%米国債を売却するといったことがあるかも知れません。しかし、米国債の大量売却は、アメリカの経済を壊滅させると同時に自国の経済を壊滅させることにつながりますので、生きるか死ぬかの戦争状態における最終手段であり、政治的な駆け引きでの実行可能なアプローチではありません。両国の貿易摩擦は、もちろんアメリカ企業への影響も多いのですが、おそらく時間の経過とともに環境に順応することが可能ですが、中国においては国家存亡の危機につながるのです。中国は見かけほど強くなく、つまるところ米中間の今後の折衝は、アメリカへの輸出製品に対する中国の何らかの自主的な制限、特定のアメリカ製品の輸入増加の確約、中国国内市場への参入のための各種規制の緩和・撤廃といったところを焦点として、どの程度の譲歩で、中国がメンツを失わない形でアメリカを満足させることができるかにかかっていると考えられます。そして、これは政治的な判断ですので、決定的な決裂は双方の利益にならず回避されるはずです。

また、トランプはよく行動や発言の不確実について評されますが、多分にトランプ自身があえてそのように振舞っていると考えられます。トランプは自他ともに認めるDeal makerであり、何をしでかすかわからない相手ほど交渉で厄介なものはないことを知っているからです。狂気は多分に演じられますが、交渉相手に自身の狂気を信じさせるためには、まず味方を欺く必要がありますので、周りの側近はたまったものではありません。こうして、大バカ者といった言葉を残して側近が次々辞任していくといった現象が起こります。

果してトランプはアメリカの雇用を増やし、賃金を上昇させ、経済成長率を高めることで輝かしいアメリカを取り戻すことができるのでしょうか。結果はわかりませんが、少なくとっもトランプが支離滅裂に行動しているということではありません。

アメリカは現在、豊富な資源と公正かつ自由で厚みのある資本市場を有し、多様な人材が集まるとともに人口が増加し続けており、競争によるイノベーションが活発に行われている点で、今なおヒト、カネ、モノを集める魅力を有しており、少なくとも現時点、考えうる未来において、他国に対して相対的な優位性が継続すると考えられます。したがって、資本の配分にあたってはアメリカへの配分を最大値にすることが望ましいと考えられます。

もっとも、そのタイミングについては最大限の慎重さが求められます。徐々に次の危機の様相が明らかになっており、過剰債務の問題に留意すべきです。

トランプが行き当たりばったりや思いつきでどのようにふるまうか予測不能というのは、多分にそのように振舞っていることが原因


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